気が付けば、スウェーデンハウスを建ててはや19年。オーナーコピーライターのひとりごと。
何歳の冬だっただろう。父からクリスマスに「森は生きている」という本をもらった。スラヴの民話を元にした戯曲で、大晦日の夜に森の中で繰り広げられる美しい物語だ。真冬に春のマツユキソウが欲しいと言い出す女王、賞金欲しさに主人公のアーニャを吹雪の森に行かせる継母。12の月の精がアーニャを導く。気まぐれに自然を乱そうとする者と自然と会話しながら生きる者の姿は、今思えば様々な示唆に富んでいた。
スウェーデンハウスで暮らしていると「森は生きている」と感じる瞬間が多くある。年ごとに飴色に変わっていくパインの風合い、カラリと心地良い木の調湿効果、庭の緑と融け合う外観。何よりふとした瞬間に、木々のぬくもりに癒される。言葉も体温も持たないけれど、森の命だった記憶が、この家には刻まれているように思う。住む人の心と響き合う感覚とでも言うのだろうか。自然の一部であるもの同士、双方向で通い合う何かがあるように思う。
つい先日、少し長めの旅行に出ていた娘が帰ってきた時のこと。大きなスーツケースをドアの内側に押し入れながら、ひょいと顔だけ出した彼女は、「キノカオリ」とつぶやき小さく笑った。私はなんだか泣きそうになり、慌ててドアを大きく開く。「ただいま」でもなくハグでもない。「ああ、うちに帰って来たんだ」と彼女をほっとさせたのは、この家だった。木の香りは私の「おかえり」よりも早く娘を抱きしめ、笑顔にさせた。この家はいつだってこの子の帰りを待っていて、この子はこうやって大きくなってきたのだ。
「森は生きている」は12月になると、ミュージカルや演劇、バレエなどでも多く上演される。物語の終盤では、自分勝手だった女王が自ら森に出掛け、大切なことに気づいていく姿も描かれる。自然は物言わぬ相手では決してなく、耳を澄まして寄り添う時、どう生きるべきかを教えてくれる。
じきにやってくる新しい年もこの家で、自然の息づかいを感じながら暮らしたい。