
気が付けば、スウェーデンハウスを建ててはや19年。オーナーコピーライターのひとりごと。

カフェでのバイト代をほぼ全部つぎ込んで、娘は観劇のチケットを買う。数年前からある女優さん(私とほぼ同じ年!)のファンになり、すっかり舞台好きになった彼女は、公演があるたびにチケット取りに命を燃やす。同じ演目を何度も観に行き、夜行バスで地方公演にも行く。インスタをチェックし、グッズを買って…可愛らしい子ども部屋だった彼女の部屋は、ポスターやフォトスタンド、公演グッズなどで今や溢れんばかりだ。
「推し活」というのは内にこもらず、ベクトルが外へ向くものらしい。自分が贔屓(ひいき)にしている人やキャラクター(=推し)を他の人におススメすることを「推しを広める」と呼ぶ。同じ物や色を身につけることを「推しに染まる」、舞台やライブに出向くことを「推しに逢う」、グッズを買うのは「推しに触れる」…当然新しい人的ネットワークも生まれ、活動は広がり続ける。夢中の力というのは、とにかくスゴイ。
情報もお金もなかった私たちの若い頃は、「好き」にのめり込むにも限界があった。そのもどかしさがまた情熱を掻き立てたという部分もあるが、今の時代の「好き」は終わることのない情報戦だ。夢中は続くよどこまでも。論文を書かせればきっと誰もが博士号を取れるくらい、その道に詳しい人になれる。
壁に推しの写真を追加しながら「落ち着くんだよ、この部屋」と娘が言う。すかさず私は「それはスウェーデンハウスだからだよ」と言う。てっきり反論してくるだろうと思いきや「そうそう。スウェーデンハウスだからさ、『好き』が落ち着くんだよ」――あれ、いつになく素直じゃないか。というか、スウェーデンハウスって推し活向きだったのか?!…「だって静かだし、集中できるもん」。
推しの存在に感謝して、一人静かに推しを想うことを「推しを感じる」と言うのだそうな。――「お邪魔しました」と退散しながら、ウフフと笑う。推しでもいい、趣味でもいい、夢中になれるものがある人生は、やはり素敵だ。